【フォレストイン益子】内藤廣氏のつくる、「この場所と共存する」建築
概要
さて、本日紹介する建築は、フォレストイン益子です。設計者は、内藤廣氏です。
ここは、「イン」とついていることからわかるように、宿泊施設です。
この宿泊施設は、栃木県の益子という町にあり、近くの豊かな自然と共存する建物として建てられました。規模は小さめですが、私はとても好きな建築だったので、見ていってください!
ここで少しだけ自己紹介をさせてください。「一日一建築」と称して一日に一つ、自分の好きな建築について発信しています著者のちぇりーです!
このサイトでは、建築を学ぶ学生の視点で、建築を分析しつつ紹介しています。建築を今までより少し深く知りたいという人は、ぜひ見てみて下さい!
見どころ
自然との関係の作り方と、内藤廣氏の建築に頻出する鉄骨と木造とのハイブリッド構造で作られた美しい屋根です。
自然との関係の作り方がいいな、と感じたのは、あえて奥の森との関係を断ち切るように、手前にボリュームを作っているところです。森への視界が遮られていたので、この写真のように、パッと奥の森の景色が見えたときに、視線が引き込まれるように感じました。
美しい屋根は、フロント、展示室と続いています。
ここでは、間仕切り壁をなくすため、大きなスパンを飛ばす必要がありました。そのため、国産杉材のLVLという集成材を使用し、折版形状とし、持たせています。さらにその木材を鉄骨のスティールパイプでトラス形状を作り支えています。構造がそのまま化粧となっている大判パネルのLVLは、トップライトからの光によって表情が変化するところがとても印象的でした。
公式サイト(営業時間、アクセス等)
フォレスト益子 | 益子町公式ホームページ (mashiko.lg.jp)
上のサイトが、管理している益子町のHPで、料金や予約のための電話番号を知ることができます。
建築としての評価は?
建築家
今回の設計は、内藤廣建築設計事務所です。
私が訪れたところは、彼の設計事務所では細長い矩形をしていることが多いなと感じています。例えば、同じように円弧を描く細長い矩形でできている、「最上川ふるさと総合公園センターハウス」という山梨県にある建築があります。さらに「年稿博物館」では直線ですが、細長い矩形でできています。
さらに、彼の設計事務所では、屋根架構にも特徴があることが多いです。
なぜなら、彼は50歳で土木の勉強も始め、建築と土木との知見を横断して設計しているため、他の建築の知見のみの建築家とは異なる設計方法をとっているからです。
彼の事務所の代表作には、海の博物館、牧野富太郎記念館、安曇野ちひろ美術館、ちひろ美術館(東京)、みなとみらい線 馬車道駅(横浜)などがあります。
今後これらの建築も紹介していきたいと思います!
機能について
宿泊施設です。
客室の他に、フロント・休憩室、展示室、レストランなどがあるが、どれも一般的なものと比べるととても規模が小さいです。
客室に関しては、1人で泊まることはできますが、2人用しか用意されていません。
ちなみに、料金は、私が行った時は一人で7150円でした。内観の良さに比べるとお得だったなと思います。ただ一つ、Wifiがなく携帯が圏外になってしまったことは衝撃的でしたが...それ以外は、大満足でした!
コンセプト
敷地に合わせて描かれた弧が美しい。
「地形の論理」と「物質の論理」が手を取り合って美しく共存し得る
引用:フォレスト益子 | プロジェクトトップ | 新建築データ (shinkenchiku.online)
ことです。
「地形の論理」は、その場所のもつ形質や由来のことで、「物質の論理」は、そこに作られる建築やその形のことを指しています。
彼は、敷地に溶け込む建築であること、かつ建築が物質として敷地に負けることなくしなやかに存在する、そんな敷地と建築の形とのバランスが取れていることを理想とし、設計しています。
敷地
この敷地は、広葉樹林の生える小高い丘が緩やかなカーブを描いているところだった。ここに無理なく客室やレストランを置くことを考えると、自然と建物は弧を描き、低層でつくる、というイメージができたという。
設計プロセス
敷地から、弧を描いた低層の建物をイメージした内藤さんは、次に、水に対して無理のない収まりを、建築のボリュームで解決できないかと、考えました。
そこで、円錐形という形状が決定しました。
外観
この写真の手前に駐車場があり、そこからのアプローチ。
手前がフロントと展示室の入っている棟で、奥が客室棟となっています。
建物の奥から、益子の森が少しのぞきます。
フロントを抜け、客室棟へ。
客室へと向かう道もとても魅力的。
フロントを出て、客室へと向かう。そのアプローチもとても魅力的。
フロントのある棟のパブリックな円弧と、客室棟のプライベートな円弧との間のことを内藤さんは、
緩衝地帯とし、そこを廊下とも回廊とも小道とも取れるような曖昧な空間とした
引用:フォレスト益子 | プロジェクトトップ | 新建築データ (shinkenchiku.online)
そうです。
本当に、従来のホテルの無機質な廊下などと比べると、陽の光が入る開放的な場所となっています。それを可能にしているのが、写真のように、回廊の上にかかるガラス屋根に、ルーバーを設置して、日当たりを制御していることでしょう。
また、床の仕上げを見ると、回廊内は、木ですが、回廊の外側は、タイルでできています。これは、雨が回廊の外に落ちた時にも劣化しない床仕上げにしたためでしょう。
そんな機能的な理由でできた仕上げの違いですが、晴れた日はタイルのところを通りたくなる、違った性格の回廊ができています。
次は、客室内部について見ていきます!
写真は客室に入るドアですが、ドアの上に窓があることがわかります。
内観
ドアを入ると、目に飛び込んでくるのが、豊かな自然と手前のはしご。
はしごの先を見ると...
ロフトと吹き抜けがあることがわかります。
先ほどの、玄関ドアの外から見えた窓は、ロフトの窓だったんですね。
開放感がある吹き抜けと、この窓から落ちる、光で目を覚ますのは心地よかったです。
こちらの窓の高さ寸法もとてもよく考えられていて、座るとちょうど外が見える高さとなっています。夜は星が見えるかもしれません。
材料
「フォレスト益子」という名前にフォレスト(森)、とついているように、木の素材が意識されています。
どこにいても、壁紙などではない、本物の木が目に入り、自然と触れている感じがします。地元の林業を元気づけるため、地場産の木材を使っていると思われます。
また、このように内装外装ともに、パネル構法でつくることで、コストダウンも図ることができます。
どこにいても、木を感じることができる、木の素材をそのまま使った温かみのある空間でした。
図面より見る計画
ロフトがついているという、ホテルにしては珍しい構成をしています。
三人でも泊まれるような計画としています。
ディテール
写真は、回廊に落ちる柱です。
このT字型の柱は、とても薄く軽い印象を与えつつ、ガラス屋根を支える強度も十分にあります。
家具も全て造り付けかな?と思いました。
内壁同様、すごく細い直線の目地で繋がれたベットフレームが美しいです。内部の家具もほとんどが木で作られていました。
雨が当たらない部分は、LVLの構造材を現しで使っています。
また、手前の扉部分をガラスではなく、壁で視線を遮っているところがさすがだなと思いました。
なぜなら、どこもあけすけだと、視線をどこにやっていいかわからない、となってしまいますが、扉部分で一回視界を遮ることで、展示室に入ったとき、トップライトから見える青空と森に感動するんじゃないか、と思います。このように、採光と視線の誘導のバランスが取れていてすごい...!と思いました。
最後に
まとめ
私が考える、今回の宿泊施設の良かったところは、視線を森へと誘導させるため、あえて森と並行にボリュームを配置して視界を遮り、建築を通して森を見せることで、より注目させることができる、という工夫です。
日本建築で言うところの、「障景」ですね。
内観については、ロフトをつけるという一つの工夫で、星も見ることができ、採光の役割も担い、雨を流すボリュームにもなっている、という三つの価値を生み出しています。
ロフトから入る朝の光が心地よかったので、住宅にも活用できる工夫でしょう。
このブログの紹介
このブログでは、「一日一建築」と称し、いろいろな建築家の方の建築を紹介しています。よかったらご一読ください。↓
Pioneer Of Attractive Archi – より深く名建築について知ることができるサイト。 (attractive-archi.tech)
昨日紹介した建築はコチラ!
フォレスト益子とはまた違った土木的な工夫にあふれた建築です。ぜひ見てみてください。
参照サイト等
・内藤廣氏が「キラキラ光る海」を表現 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)
・フォレスト益子 | プロジェクトトップ | 新建築データ (shinkenchiku.online)
・フォレスト益子|住宅/ビル/マンション設計者の建もの探訪 (naokikataoka.com)