【十日町情報館】内藤廣の作る、本のつくる居場所。「図書館戦争」のロケ地にもなった建築。

概要
さて、本日紹介する建築は十日町情報館です。設計は内藤廣です。映画「図書館戦争」のロケ地としても使われました。
この図書館は、新潟の年の半分を雪とともに過ごす豪雪地帯、十日町にあります。そこで、どのように人々の居場所を作るか、という問いに応えた建築となっています。名作建築と言われていますのでぜひ訪れてみて下さい!
ここで少しだけ自己紹介をさせてください。「一日一建築」と称して毎日自分の好きな建築について発信しています著者のちぇりーです!
このサイトの特徴として、建築学生が建築計画という観点から評価するというところで、ボリュームは少し多めですが、その分、建築についてより深く学べると思うのでぜひ見てみて下さい!
見どころ
この建築の特徴は、①大きな屋根と、それが作り出す②大空間と、③トップライトからの柔らかな光の三つです。
大空間については、本棚でのみ仕切られていることで、どの場所にいても本に囲まれ、つながっている感じがします。
この本棚の段々は、十日町の「棚田」にも似ていますね。

正直、私が訪れたところ、名作…?となってしまったのですが、その一方で、ここにいると、自分がよく見る本のジャンルのところが、まるで自分の居場所かのように感じる、と思いました。そういった面白さも、この建築にはあると思います。
公式サイト(営業時間、アクセス等)
市の公式サイトは以下のページになります。
十日町情報館/十日町市 (tokamachi.lg.jp)
交通手段、住所等もこのサイトに載っています。
建築としての評価は?
建築家
今回の設計は、内藤廣氏が設計しました。
50歳で土木の道も進み始め、建築との二足の草鞋を履く内藤さん。彼はその土木の知識を生かした、迫力のある建築を設計します。
その一方で作風としては、自身の建築を「静かな建築」と呼ぶほど、「空間の質」を最も重要視しています。
代表作には、海の博物館、牧野富太郎記念館、安曇野ちひろ美術館、ちひろ美術館(東京)、みなとみらい線 馬車道駅(横浜)などがあります。
今後彼についても紹介していきたいと思います!
この建築においても、「海の博物館」で考えた、気候や環境に対して技術的な最適解を求める、というアプローチの仕方が生かされているそうです。
コンセプト

「豪雪地帯に、人々の居場所を作る」ことです。
そのため、「見どころ」の項で特徴①として紹介した大きな屋根を作りました。
これは、内藤廣さんの土木の知識を生かしてつくられた、積雪荷重に耐えうる強靭な屋根です。
さらに、大屋根のスパン同士をつなぐ部分にトップライトを設けたことで、冬の積雪の間も太陽の柔らかな光を中に取り入れています。
このように、強靭で、かつ光を取り込む大屋根を作ることで、人びとの居場所を作ることに成功しています。
機能について
情報館、とついていますが、図書館という役割のほうが大きく感じます。
竣工当時(1999年)には、情報分野がまだそこまで発達していなかった影響か、情報を扱う部分に関する検討が不十分かもしれません。
具体的には、情報を扱う場所は、パソコンを置き、それだけで検索性を確保できるため、箱型に。一方で、探索性を高めなくてはならない図書の置き場を、「知のステップ」のようにしました。
特徴的な屋根についてです。
豪雪地帯だと通常、勾配屋根で雪を降ろして汲み上げた地下水で融雪する、という落雪型の屋根を採用する方法がとられます。しかし、この地域では地下水が枯渇する可能性があり、この建築は、堆積型の屋根にすることにしました。
私は、この耐久度の高い屋根を作ることばかりが語られていて、空間性については語られていない、図式的に作られた建築のように感じました。その一方で、訪れたのは夏でしたが、館内には利用者がたくさんいらっしゃいました。土木の知識を使った建築の実務的な成功例を知りたい、という方には内藤廣さんの建築はおすすめです!
外観
コンセプトの項の写真のように、
控えめな外観に豊かな内部
引用:内藤廣 ② 「十日町市情報館」 | オーガニックスタジオ新潟社長の奮闘記 │ おーがにっくな家ブログ (ameblo.jp)
を大切にしています。
人々の居場所となる存在として、あまり派手な建築にはしたくなかったのでしょう。
内観

やはりこの「知のステップ」がこの建築の空間の中では、一番重要でしょう。

従来の図書館では、上の写真のように、整列された本棚でぎゅうぎゅう詰めである例が多いです。
それに比べて、「知のステップ」では、知識と場所とが結びついていることがわかります。自分がよく見る本のジャンルのところが、まるで自分の居場所かのように感じるでしょう。
四角形という幾何学に沿って巻き付く居場所では、本棚は一つ上の階と下の階を分けることによって居場所を作る手すりにもなります。
彼は以下に紹介する参考書籍において以下のように述べています。
物珍しさはすぐに飽きられる。設計と言う行為に課せられた大切な役割は、性能や機能を忠実に満たしていく中で、変わりにくい価値、時間とともに消費されない価値をいかに埋め込むことができるか、にある。
引用:内藤廣の建築 1992-2004――素形から素景へ1
ここで言われている通り、1999年に竣工してから既に25年近く愛されてきました。
図面より見る計画
緩やかな傾斜地であったため、駐車場側の入口から入って一階を通り、「知のステップ」を通って、地下一階へと降りたかと思いきや、そこにも入口がある、という構成になっています。
このように、「知のステップ」は、棚田に似ている構成になっているだけではなく、まさにこの土地で実現するのにぴったりなデザインで合ったことがわかりますね。
ディテール
豪雪地帯で居場所を作るための大きな天蓋を作るための工夫が、たくさんありました。
圧倒的な量の雪から身を守る丈夫で大きな天蓋(シェルター)が必要だ。
引用:十日町情報館 | 新建築データ (shinkenchiku.online)

写真が天蓋のトップライトです。上から見ると高さ方向に三角形という形をしています。ガラスという弱い素材が積雪荷重に負けない為、平らではなく三角形としたのでしょう。
図面は新建築のサイトにありますので、見てみて下さい。
また、素材はコンクリートで、プレキャストコンクリートのポストテンション組立工法により、少ない柱で大空間を構成することに役立っています。
最後に
このブログでは、「一日一建築」と称し、いろいろな建築家の方の建築を紹介しています。よかったらご一読ください。↓
Pioneer Of Attractive Archi – より深く名建築について知ることができるサイト。 (attractive-archi.tech)
昨日紹介した建築はコチラ!
参考書籍等
内藤廣の建築 1992-2004――素形から素景へ1
内藤廣さんの作品集であり、回顧録のようなものになっています。
私は、新建築データとこちらの書籍を読みましたが、非常に参考になりました。
環境デザイン講義
内藤廣さんの著書で、本当におすすめです!上の作品集とはまた違い、読み物です。内藤廣さんは本当に言説が面白いのでぜひ読んで欲しいです。
環境だけでなく、構造、形態デザインについての書籍もあり、三冊でシリーズになっていますので、ぜひそちらも見てみて下さい。
参照サイト等
*写真はすべて自分で撮影したものです。
・書籍 内藤廣の建築 1992-2004――素形から素景へ1
・十日町情報館/十日町市 (tokamachi.lg.jp)
・“内藤廣設計”十日町情報館 (iskaa.net)
・内藤 廣 - 建築にできること「十日町情報館」:東西アスファルト事業協同組合 (tozai-as.or.jp)
・内藤廣 ② 「十日町市情報館」 | オーガニックスタジオ新潟社長の奮闘記 │ おーがにっくな家ブログ (ameblo.jp)
・十日町情報館 | 新建築データ (shinkenchiku.online)
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