【角川武蔵野ミュージアム】ところざわサクラタウンに位置する、石がつくるポリゴン建築

筆者撮影。人が写っていなければスケールが全く分かりません。

概要

ところざわサクラタウンとは、20/11/06オープンの、KADOKAWAが建設、運営する書籍製造・物流工場やオフィス、ホテル、ショップ、神社、ミュージアムから成る複合施設となっています。

これらの建物群の中でも最も注目すべきが、上の写真に写る、鹿島建設が設計し、隈研吾氏がデザインを監修した「角川武蔵野ミュージアム」。この中には、ミュージアムという名前の通り展示室があったり、図書館があったり、漫画やライトノベルの図書館まであります。
この外観となった理由なども含めて載せていますので、ぜひ見て行ってください!

ここで少しだけ自己紹介をさせてください。「一日一建築」と称して一日に一つ、自分の好きな建築について発信しています著者のちぇりーです!
このサイトでは、建築を学ぶ学生の視点で、建築を分析しつつ紹介しています。建築を今までより少し深く知りたいという人は、ぜひ見てみて下さい!

見どころ

自分撮影。

ゲームのCGにおけるローポリの岩のような外観です。
以下の写真がゲーム内画像のローポリの岩のイメージです。ローポリとは、ローポリゴン、の略で、立体の表面を形作る多角形のことをポリゴン、と呼びます。

出典:ローポリ自転車ゲーム『Lonely Mountains: Downhill』大型アップデート配信。デイリーライドのゲームプレイに多様な変化を加える - AUTOMATON (automaton-media.com)

このように、ゲームの中を思わせる非現実的な形をしています。
非現実的な形となっているのは、通常は四角形で作られている建築が、三角形のみで構成されているからではないでしょうか。なんと、61もの三角形を使ってできています。幾何学の純粋さを失わないよう、ところどころにある開口も、三角形の底面の形に沿ってつけていることがわかります。それは、非現実的な形にすることで、建物のスケールが把握しにくくなり、実際よりも大きく、シンボリックに見えるという理由からでしょうか。

さらに、建築の外側を覆う石は、すごく様々な色や形をそのまま使い、それによってモザイクを思い起こさせ、さらに非現実的に感じます。

自分撮影。美術館出口から上を見たところ。

内観の見どころとしては、4,5階の吹き抜けにある、高くそびえる本棚があります!
ここでは、20分毎に、埋め込まれたディスプレイも含めたプロジェクションマッピングも上映されます。目の前の本たちが踊りだす、といったパフォーマンスで、6分ほどの上映です。行った際はぜひ見てみてください。

公式サイト(営業時間、アクセス等)

公式サイトはコチラ↓
角川武蔵野ミュージアム (kadcul.com)

この建築が位置するのは、埼玉県の所沢市です。
ところざわサクラタウン、の建物の一部として建てられた美術館「角川武蔵野ミュージアム」です。混同しないよう、気を付けてください。

公式サイトに掲載されたアクセスの抜粋です。

引用:アクセス|角川武蔵野ミュージアム (kadcul.com)

公共交通機関:JR武蔵野線「東所沢」駅から徒歩約10分
車:関越自動車道「所沢」ICから約8分です。
※有料駐車場があります。

開館時間は以下です。

日~木曜
10:00~18:00(最終入館 17:30)
「KadoCafe」10:00~19:00
「SACULA DINER」11:00~22:00
(最終入店19:00/L.O.21:00)

金・土曜
10:00~21:00(最終入館 20:30)
「KadoCafe」10:00~21:00
「SACULA DINER」11:00~22:00
(最終入店20:00/L.O.21:00)

休館日は、毎月第1・第3・第5火曜日(祝日の場合は開館・翌日閉館)

建築の概要

設計者

隈研吾建築都市設計事務所です。

また隈研吾氏設計の代表的な建築で、もっとも有名なのは、国立競技場です。
近作で、都内にあるものの中はスターバックス リザーブ® ロースタリー 東京根津美術館明治神宮ミュージアム、JR高輪ゲートウェイ駅、浅草観光センターなど多数あります。

このブログでは、「一日一建築」と称し、隈研吾氏の建築の多くを紹介しています。よかったらご一読ください。↓
Pioneer Of Attractive Archi – より深く名建築について知ることができるサイト。 (attractive-archi.tech)

施工者は鹿島建設です。

施設の機能

自分撮影。角川武蔵野ミュージアムの隣の商業施設を下から見上げたところ。

「ところざわサクラタウン」とは、この一帯の建物群を差します。写真は、角川武蔵野ミュージアムの隣にある商業施設を下から見上げたところで、このアルミエキスパンドメタルの手すりが特徴的ですね。
その中でも「角川武蔵野ミュージアム」が、今回取り上げた建築です。

角川武蔵野ミュージアムの内部は5階建てとなっています。
1階:グランドギャラリーとマンガ・ラノベ図書館(と駐車場)
2階:メインアプローチ。受付、カフェやミュージアムショップ
3階:EJアニメミュージアム
4階:ギャラリー、図書館、本棚劇場
5階:レストラン・カフェ
(*展示入れ替えの期間だったので太字の場所のみ入場可能でした。)

漫画・ラノベ図書館。

こちらは、本棚は四階と同様の色々な大きさのものを使っていましたが、建築スケールでの工夫はあまり見られませんでした。
建築に興味がある方は四階を重点的に見ることをおすすめします。

コンセプト

地形が隆起したかのような建築をイメージしたそうです。
隈研吾氏は、この建築のことを「石の建築の集大成だ」と述べています。

設計方法

筆者作成ダイアグラム。
この美術館は、遠くから見ると様々な本が集まってできたように見えます。

これは、勝手な私の解釈ですが、内観の本がたくさん集まっているところと、その間仕切り壁が外観から受けるイメージと同様に傾いているところから考えるに、この花崗岩の一枚一枚を、本に見立てているのではないでしょうか。
だからこそ岩の表面をあえてざらざらとしたままにして、その一枚一枚違う個性を持つ、というところを、一冊一冊違う内容が書かれた本に見立てる。その本がたくさん集まって、本棚になる。というイメージでこの建築はできたのではないでしょうか。
そうしてできた知識のかたちは、整然としたかたちを持たないことから、水平垂直をもたない造形の外観や、斜めになった間仕切り壁のある内観になったのではないかと想像しました。

外観

三角形という純粋な幾何学であることを崩さないよう、三角形の底辺に沿って作られた出入口です。
このように引き込んだ出入口の多くが、突き当りを入口にすることで、全て四角形になってしまいます。そこをこの建築では工夫していて、引き込んだ突き当りではなく、面の部分を入口にすることで、天井と床に三角形を作っていることがわかります。

内観

自分撮影。4階の美術館メインアプローチより見る。

外観の三角形という幾何学の純粋さとは裏腹に、内観は、本がごたごたっと集まってきた、知識の集積の形をそのまま表したかのように見えます。
その工夫については以下の「図面からの読み解き」の項目で見ていきます。

計画の過程

図面からの読み解き

平面図のスケッチ。斜線部がバックヤード(来訪者は入れない場所)

こちらがメインで展示が行われる四階の平面図のスケッチです。

外のイメージと合わせて間仕切壁を傾けていたり(上写真)、従来の様な四角い本棚を並べ無機質に本を陳列するのではなく、様々な大きさの本棚が組み合わさってできた壁(下写真)に、背表紙を見せたり表紙を見せたり中身を見せたりと本に関しても様々な見せ方をしています。脳みその中をのぞいているような、知識のかたちは決まっていないと言われているかのような印象を受けました。従来の図書館でも博物館でもない、新しい施設、という印象でした。

筆者のスケッチ。赤い丸部分が切り欠き。

その一方で、写真に示した、三角形の切り込み部分は、外からは印象的だったのにも関わらず、内観からは感じることができませんでした。それが残念な部分だと思います。
今回は入れなかった5階部分ではレストランやカフェで自然光を浴びることができる窓になっているかもしれませんが、4階部分においても、たくさん本を読んで疲れてしまった人が自然光を浴びられる、休憩所としてのベランダにするなどがあると面白いなと思いました。

マテリアル

自分撮影。美術館出口付近の角を見たところ。

このモザイク柄のように見える外壁は、なんと2万枚もの石の板材でできています。近づいてみると、オープン目地となっていて、石を張り合わせて作られていることがわかります。
仕上げは、「割肌(われはだ)」と呼ばれる、職人さんが岩から石を切り出したときの表情をそのまま残したもので、とてもざらざらとしています。「地形が隆起したかのような」建築にするためには、石の表情を残したかったのでしょう。

ディテール

約2万枚ある外壁の石材の重さは約1200t、建物の総重量は約1万2000tある。これを支え、かつ上に向かって大きくなる形に耐えられるだけの強固な構造が必要になった。

引用:石の建築「角川武蔵野ミュージアム」、隈氏のデザインを鹿島はどうやって形にしたのか(3ページ目) | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

この外観を実現するために必要とされた構造を以下で解説します。

筆者作成ダイアグラム

外観の水平垂直がなく、施工の困難な形に上の様なマテリアルを張るためには、様々な種類の素材を使う必要がありました。
一番内側に、鉄筋コンクリートがあり、その外側に重い石材を支えるための下地鉄骨をつけ、その鉄骨に、鉄でできた胴縁とも呼ばれる下地材をつける。そこに、ようやくファサードに見えている花崗岩をつけることができます。

考察、参照元

考察

出典:石の建築「角川武蔵野ミュージアム」、隈氏のデザインを鹿島はどうやって形にしたのか(2ページ目) | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

この写真から、私は岩石というよりもむしろ、三角形という純粋な幾何学に厳密に作っていった、抽象画の様な建築だな、と思いました。そして外形について「切り込まれ、切り落とされた」ように感じました。
そのため、夜景においては壁に当たってふんわりと光る間接照明がとても美しくなっています。
その一方で、こういった施工が困難だったのに成し遂げられた場所が、入ることができないので内観から知ることができない、というところは残念だと感じてしまいました。

出典:石の建築「角川武蔵野ミュージアム」、隈氏のデザインを鹿島はどうやって形にしたのか(3ページ目) | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)
筆者は夜景を見られなかったので引用した。

今回の外観を実現するためのBIMモデリングや施工図の作成は大変だったことは想像に難くありません。理想の形を創り出すためには困難が付きまとうんですね。
さらに建築は、一度作ってみよう、ができない。一回の実験に何年もかかるというところがさらに建築を難しくしているな、と感じる建築でした。

参考書籍

隈研吾氏の建築を学ぶ上で、私が一番におすすめしている書籍です。
図解でわかりやすく、かつ明快な分類でまとまっていることがこの本の特徴です。初心者の私でも読むのが楽しく、かつ建築学生として有用な知識が詰まっていました。
隈研吾建築の変遷を全体的に捉えること、一つ一つの建築の特徴を理解すること、というどちらものアプローチで学ぶことができます。
ぜひ手に取ってみて下さい!

言わずと知れた名著です。建築に携わるものとして、読むことは必須だと思います!

参照サイト等

「角川武蔵野ミュージアム」がプレオープン!隈研吾デザインの巨大建築にギャラリーやマンガ・ラノベ図書館が入居|ウォーカープラス (walkerplus.com)
角川武蔵野ミュージアム (kadcul.com)
開館時間・休館日・利用料金|角川武蔵野ミュージアム (kadcul.com)
石の建築「角川武蔵野ミュージアム」、隈氏のデザインを鹿島はどうやって形にしたのか(2ページ目) | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)
胴縁とは?1分でわかる胴縁の役割、寸法、cチャン、縦胴縁 (kentiku-kouzou.jp)
隈研吾が語る「角川武蔵野ミュージアム」に込めた意図。「建築を地形に近づける」|美術手帖 (bijutsutecho.com)

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